第23話 休憩所の亀
[1988年7月 シンガポール]
昨夜到着時でも暑かったが、日中は言うまでもなく更に暑い。北緯一度。この時期は太陽が頭上を越えて北側にあり、影が南側にできる。初めての体験だ。
道路脇にある休憩所のようなところへ入る。入ると言っても扉はなく学食にあるような大きなテーブルがいくつか置いてあり、その周りに店が並んでいる。屋根も板を打ち付けたような簡単な作りである。何か面白そうな飲み物でもあるかと探していると、ビックリ仰天 気持ち悪いものを見つけてしまった。
1960-70年代の日本ではスーパーマーケットなどの店頭でオレンジジュースや冷やし飴が売っていた。機械の上部にガラスか透明なプラスチック容器があり、その中でそれぞれの飲み物が噴水のように吹き出していた。この透明容器部分の高さが60-70cmくらいはあろうかという機械を見つけた。中には飲み物だろうか、不透明な液体が入っていてその中で何やら黒いものがゆっくりと動いている。
機械の上を見ると “Turtle Soup” だったか ”Turtle Juice” だったかと看板がぶら下がっている。なにぃ〜? 亀??? 恐る恐る近づいて見ると中で動いている黒いものは5cmほどの甲羅の亀だ。動いているのは泳いでいるのではなく、沸騰するスープかジュースの動きでゆらゆらと行き来しているのだ。暑い土地であるが熱い飲み物だ。ジュースの上部には灰汁のようなものがゆらゆらと浮遊している。
あ゛〜 一気に元気がなくなってしまった。話のネタに何か面白いものをと思ったが、さすがにこれに手を出す勇気はない。コーラを飲んでその場を後にした。