第28話 停まらないバス
[1988年7月 ホンコン(香港)]
半日時間が取れたので、どこか一つくらいは後輩を観光へと思いタイガーバームガーデン (虎豹別墅)へと連れて行った。軟膏薬タイガーバームの売り上げで巨額の富を得た富豪“フー ウェンフー(胡文虎)”氏と“フー ウェンパオ (胡文豹)”氏の兄弟により1935年に建設された別荘である。1950年代に一般公開された。
カウロン(九龍)からスターフェリーでホンコン島(香港島)へ渡る。現地近くへ行く鉄道はなくバスかタクシーしか交通手段はない。タクシーは高い。日本に比べれば安いものだが、少しでも現地人のように行動したいのでバスに乗ることにした。が、バス路線が複雑だ。
道行く人に尋ねながらようやくバス停にたどり着いた。xx番のバスに乗れとのことで、その番号が表示されたバスを待つ。来た。が、バスは素通りして行った。何で? 次のバスもその次も停まることなく通り過ぎていく。おかしいな。停留所を間違えているのか? いや、合っている。
一人の男性が近寄って来て“何番のバスを待っているの?”と聞いてきた。“xx番ですが、さっきからここには停まらないんです”と答えると “乗りたいバスが来たら手を上げないと停まらないよ”と教えてくれた。
停留所に人がいるからという理由だけでは停まらない。何種類もの行き先の違うバスが一つの停留所を共有しているのでどれに乗りたいのか意思表示が必要なのだ。バスにしてみれば、停まったものの違うバスに乗る人だった ということになれば時間も燃料も無駄になる。効率よく運行する為の方法なのだろう。
またバス停をたくさん設置するとその費用もかかるし、道路や歩道が狭くなる。経済的かつ土地の狭いホンコン(香港)ならではの対策なのだろう。