第16話 映画俳優兼プロテニス選手
[1982年11月 ホンコン(香港)]
帰国の日、朝のホテル前。ここに集合することになっているのだが、まだ少し早い。玄関先にたくさんの荷物が置いてある。その横には金髪白人男性が立っている。はて、どこかで見た顔だ。アメリカの映画俳優兼プロテニス選手のVincent Van Patten (ヴィンセント・ヴァン・パタン)ではないのか？
1981年に公開された映画「Yesterday (イエスタデイ)」の主演である。ほとんど映画を見ない自分が珍しく映画館で見た数少ない貴重な作品の主演だ。他にもかなりたくさんの出演作品があるが、見たことはない (苦笑)。
テニスでは、生涯最高ランキングはシングルスで世界26位、ダブルスで世界24位を記録しており、この前年1981年に東京で開催されたセイコー・ワールド・スーパー・テニスで優勝している。この時もちょうどこの大会が日本で開催されており、それに出場していたのだろう。たくさんの荷物の中にはテニス用具が入っているらしきバッグもある。が、今ここにいるということは、早々と敗退したということか。
こんな人をこんな所で見かけるとは何と幸運なのだろう。すぐに近づいて話しかけた。「あなたの映画、イエスタデイを去年見ましたよ。」「どこで見たの？」「日本で」、少し驚いた様子だったが、そんなに気にもせず会話は続き、最後に一緒に写真を撮ってもらった。あとで考えてみると、“日本で見た”ことが不思議だったのは、こちらを香港人だと思っていたからではなかろうか？
